最高裁判所第一小法廷 昭和30(オ)711 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人白畠正造の上告理由第一点について。
論旨第一、第二は原審認定にかかる代物弁済の効力を否定するからこの点につき
判断する。
所論のとおり、原審が確定した消費貸借における月八分の利息の約定が、当時施
行の利息制限法所定の利率を超過することはまことに明らかである。けれども、約
定利率が異常に高く社会通念に照して給付と反対給付との間に著しい不権衡が認め
られる場合とか、消費貸借に際して窮迫軽卒無経験に乗じ権衡を失した利益を約定
せしめた場合とかの特別の事情のない限りは、唯単に約定利率が利息制限法所定の
利率を超過したとの一事のみを捉えて直ちに消費貸借契約全部を無効と解すること
はできない(最高裁判所昭和二七年三月六日第一小法廷判決民集六巻三二〇頁以下。
同二八年一二月一八日第二小法廷判決民集七巻一四七〇頁以下。参照)のであるか
ら、斯かる特段の事情の認められない本件において、係争の消費貸借契約全部を無
効としこれを前提として代物弁済の効力を否定する所論はあたらない。
又代物弁済の一方の予約に際して債権者が債務者の窮迫軽卒無経験に乗じ本来の
給付と権衡を失した新給付を約定せしめ、或は右の如き窮迫等に乗じなくとも社会
通念に照して本来の給付と著しく権衡を失する新給付を約定せしめた場合等にあつ
ては右予約は民法九〇条により無効と解すべきであろうけれども、原審はこの点に
つき上告人の立証方法に拠つてもこれ等特段の事実を認めるに足りない旨を判示し
て上告人の公序良俗違反の抗弁を排斥して居るのであるから、この点に関する所論
は結局原審の否定した事実に基いて代物弁済の効力を否定するに帰し採用に由ない。
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更に代物弁済契約完結の意思表示の当時新給付の経済上の価値が本来の給付のそ
れを遥遙に上廻りその間に著しい懸隔を生ずるに至り債務者が右完結に異議を述べ
任意に承諾したものではないとしても、原審は係争の代物弁済の予約が消費貸借上
の債権者である被上告人のみのためにする一方の予約である旨を認定判断して居る
のであるから、被上告人はいわゆる予約完結権を有するのであつて、債務者たる上
告人の承諾をまたずその予約完結の意思表示及びその旨の不動産所有権移転登記に
よつて代物弁済は成立し、その効力を生じたものと解するに妨げないのみならず、
本来の給付の経済上の価値は予約締結時を以て基準とし新給付のそれについてのみ
予約完結時を基準として右両者間の懸隔を云々しその不当を主張して代物弁済の効
力を否定しようとする如き場合は特段の事情の存することを主張立証すべき筋合で
あるところ、この点につき従来主張立証の為された事迹の記録に顕われて居ない本
件にあつては、此の点に関する所論も採用し得ない。
論旨第三、第五は原判決に理由不備の違法があると主張するけれども、原審は所
論消費貸借を基礎とする代物弁済の予約が公序良俗に違反する旨の上告人の抗弁、
被上告人の予約完結権の行使が信義則に違背し権利濫用に該る旨及び代物弁済の効
力を否定する合意が成立した旨の各仮定抗弁につき認定判断を為し結局上告人の消
費貸借による債務が消滅に帰し被上告人が係争不動産の所有権を適法有効に取得し
たものである旨を判示して居るのであつて、所論の点に関する説示として欠けると
ころのないことが原判決の行文上看取し得られるから論旨は理由がない。
同上告理由第二点について。
論旨は原判決に理由不備の違法があると主張する。しかし原審は、上告人が係争
の消費貸借による元金債務中に昭和二六年一月二八日金一〇〇〇円を弁済した旨の
上告人の抗弁は認められず結局上告人はその弁済期たる同年六月三〇日を徒過し債
務の本旨に従つた本来の給付を為さなかつたのであるが、被上告人は上告人の懇請
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により約定損害金を受領してその予約完結権の行使を猶予し、その後上告人が約定
損害金をも支払わないので右完結権を行使するに至つたものであること、その後右
代物弁済の効力を否定排除する如き交渉があつたけれども合意成立に至らなかつた
ものであることを認定判断したものであることが原判文によつて看取し得られるの
であつて、所論の点につき所論の如き趣旨不明確、判断遺脱等なく論旨理由がない。
以上説示した以外の論旨はすべて原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違
背を主張するものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 河 村 又 介
裁判官 島 保
裁判官 小 林 俊 三
裁判官 垂 水 克 己
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